釣りとグラスとタレックス

 

Written by leon

 

 私は当時仕事でアメリカ西海岸に通算で2年近く住んでいたが、釣り馬鹿としては「当然」のごとく(笑)、赴任の際、わが身より先にダンボールケース2個分の釣具とロッド15本を送り込み、現地スタッフに「ミスターロッドマン」と言うニックネームを貰う羽目になってしまった。

 

NBAのやんちゃな暴れん坊「ロッドマン」と私のやんちゃぶりに「釣り竿の意味のロッド」を洒落てつけられたのだが、実に上手いネーミングでまったく気に入ってしまった。

 

オフの日はもとより、ほぼ毎日仕事を終えた後ロッドを抱えて夕マズメを楽しんでいたが、そんな毎日の中で幸いにもBASS(米バスフィッシング組織)に名を連ねる、二人のバスプロを知己に持つことが出来た。

 

ある日、そのうちの一人、サンディエゴに住む「ボビー・スゥオートウッド」とスポーニングの最中のビッグバスをやろうじゃないかという話になり、サンディエゴ郊外にある、とある湖に出かけた。

 

ここは流れ込みはないが湧き水で出来た湖であり、そのせいでかなりのクリアウオーターであった。ボビーは探索の後、一つのネスト(バスの産卵巣)にボートをそっと寄せ、

 

「ヘイ、あのビッグママを見てみろ」と言う。

 

驚きである。日本ではめったにお目にかかることのない60cmを軽く超える「フロリダ種の牝バス」が、ネストの周りをゆったりとクルーズしている。早速ボビーの計らいでテキサスリグをセットし、バスの通り道にキャストしてそっと置く。

 

実はここからが問題であった。リグが!ワームが!見えないのである。ここの底質は鉄分が多いのか、赤黒い色をしていて、おまけにボビーがセレクトしたワームはまさにその色!黒に若干赤い色の混じったくすんだ色で、シンカーも鉛色なのでほとんど見えないのである。ここでの釣り方は、バスがすぐに口を離すので、くわえた瞬間にフッキングしなければならない。日本でのネスト撃ちとは少々勝手が違う。私にはどうしてもバイト(咥える)の瞬間が見えず、ボビーの「Bite!!」と言う声に合わせてロッドをあおるしかすべがなく、2~3度のリトライの後ビッグママは反転して消えた。その後、少し小型のアベレージサイズ(5055cm)を2匹ほど取り込んで一息つきながら

 

「君はよくバイトの瞬間が見えるな」

 

と聞くと、ボビーは何もいわず笑いながら、実は先程から気になっていた「サングラス」を顔からはずし、ほうってよこした。

 

いやいや、実は私も某釣具メーカーの「偏光グラス」を掛けていたのだが、コレには驚いた。格段に良く見えるではないか!「釣りに偏光グラスは必需品」ということは現在では当たり前の話だが、レンズの能力でこんなに違うとは…。

 

その後グラスを借りたまま釣り、バスがワームをそっと咥えた瞬間を見逃さず、百発百中でキャッチできたのは言うまでもない。

 

帰国前にボビーお奨めの偏光グラスを購入し、釣行の際には片時も離せない釣具の一つになり愛用していたが、ある日釣友でTVパーソナリティーの「ボンバー石井」君から「加来さんタレックスって知ってる?」と聞かれ、かなり良いと言う話は聞いていたが実際見たことがない事を告げると「もの凄く良いから試してみたら?驚きますよ!」と言うではないか!早速教えられたショップを訪れ、色々なレクチャーを受けた後、ウンもスンもなく手始めに「トゥルービュースポーツ」を購入。

 

休日を待ちきれず仕事そっちのけで実釣に及んだ。釣りはアオリイカの日中エギングである。

 

「この釣り」も見えなければかなりのロスがある。結果は想像以上に明白であった。今まで愛用のグラスに比べ、さらに奥まで見通せる。水深にして1m以上視界深度が伸びた感じがある。エギを追って来たアオリの第一陣の後方に、さらに良型の第二陣がいるのが「見えた」のである。今まではコレに気付かず散らしてしまっていた可能性があり、思わずハッとしてしまった。しかし、見えてしまえばこっちのもである。潮下から丁寧に一匹ずつ狙い撃ちで、先陣と後陣の11杯を全て釣りきった。

 

本当にまいった。脱帽である。今までタレックスの威力を知らなかった事が何とも悔やまれる。「あの日にタレックスを使用していればボビーに笑われることもなかっただろう。日本人釣り師の底力の片鱗でも見せ付ける事が出来たのではなかろうか?今年また行って見せ付けてやろうか?」

 

と夢見る始末である(笑)私はここ数年メバリングに嵌っているが、エギングに続きメバリングも日中の釣りが今後の主流になる可能性を秘めている。

 

また、メバリング、エギングに限らず、「初夏の低い日差しの中で釣る鮎は?」「木漏れ日と陰でまだらの水面の渓流釣りは?」「炎天下浮きを見つめっぱなしの磯釣りは?」と考えてしまう。

 

その際に、ある意味ロッドやルアーより重要なアイテムは「グラス」と言うことが言えるのではなかろうか?魚やストラクチャーが見えると見えないではアドバンテージに大きな開きがある事は理の当然である。それ以上に、タレックスであれば水中ウオッチングまでも楽しめてしまう。一日中照り返しの中で水面を見続けなければならない「日中の釣り」では、反射光をさえぎり、自然光の流入量も多く、ひずみもなく、眼精疲労を抑えてくれる「高精度の偏光グラス」の存在はまったくもって「感謝」の対象でさえある。

 

私にとって「タレックス」は欠かせない存在になってしまった。惚れっぽい私は、皆に「メーカーの回し者」かと疑われるくらい、釣り人である無しに関わらず見境なくお奨めしている次第である。

 

2003 4月 グラシーズ白島HPへの掲載記事より」

 

Written by leon