★北米釣り紀行(3)結末編

 

Written by leon

 

「アッパーレイクとコヨーテとリザード」

 

ロウアーレイクのロッジで俺はハイネケンを、ボブはクアーズライトを注文し、馬鹿でかいサイズのバーガーに食らい付いた。この「ハイネケン」だが日本のスナック当たりで飲むおなじみのハイネケンとは別物である。このビールは「ハイネケンA酵母」と言う特殊な酵母菌で作っているらしいのだが、結局は今まで「本物を飲んだ事がなかった」としか言いようがないほど美味かった。

 

最初は視察の為に初めてアメリカを訪れた折にシカゴのホテルのバーで注文したのだが、一口飲んで「え?」となってしまった。香りがまるで違った。のどの奥で広がる旨味は、記憶にはない峻烈なビールの味だった。

 

「アメリカ酔い」している俺の舌がおかしいのかも知れないが、確かに日本で飲むハイネケンとは違っている。元々好きな味なのにコノ鮮烈な印象にはぶっ飛んでしまった。バーテンダーに聞いてみると「オランダからの直輸入品」との事だった。日本のハイネケンは国内生産か?

 

後にロスの日本人向けマーケットで「アサヒスーパードライ」を買って帰ったがコレがまた笑ってしまった。「切れが良いのにコクがある」はずのスーパードライが何だかぼや~っとした味がする。ラベルを見てみると案の定アメリカ国内製造のようだ。確かにバドライトに近い味がしたような(笑)

 

マ、こんなもんだ、世の中は(爆)

 

(いざ、アッパーレイクへ)

 

ランチを早々に済ませシボレータホに乗り込む。10分ほどなだらかな勾配を上っていくと割合複雑な稜線が絡み合った「山間部」と何とか呼べるような景色に変わって来た。しかしココもカリフォルニアの特徴的な風景でまともな「木」がない。潅木程度の背の低い薄茶色の植物が点々と生えているだけの実に殺風景な山々だった。

 

しかし、大きなアールのカーブを曲がった直後目の前に素晴らしい景観が広がった。いきなり「レイクキャステイク」の全容が目の前に現れた。

 

「コレコレ!これだろうヤッパリ!」

「これだよ、キャステイク!」

「実に良いね~どうも♪」

 

「…トム。」

「いったい何をぶつぶつ言ってるんだ?」

と、ボブが聞いてきた。

 

イヤ、悪い悪い、感動のあまり日本語でしゃべってたわ俺!(笑)苦笑しながらボブは今朝と同じようにパスを提示しながらゲートを通過した。しかし午後からのランチングなので実にゆったりと支度を始めた。元来セカセカした人物ではないようだ。

 

アッパーレイクのボートスロープは凄まじかった。周りの景色も見通しが良くだだっ広いので大きさに見当が付きにくいのだが、結構な急角度なのも手伝ってまるで巨大ダムの斜面を上から見下ろしているような錯覚を覚えるほどだった。実にうらやましいシチュエーションで、このリザーバーよりはるかに広い琵琶湖などのソレを思い返すと寂しい気分になった。

 

(まずはドライビング)

 

支度を済ませボートに乗り込む。100メートルほど沖合いにいくつもブイが並んで湾のようにスロープや桟橋エリアを囲んでいる。このエリアは「港内徐行」と言う事になっているようだ。この辺のルール、レギュレーションはアメリカは実にしっかりとしていて皆整然とソレを守っている。日本の漁港でもある程度常識的に徐行はするが、ココのはホンモノの徐行だ。日本人の俺には多少イラ付くほどのアイドリング回転だけで100メートルほどのエリアを通過して外へ出た。

 

ボブは良く心得ていた。

ニヤッと笑って「サア行くぞ!」と言い、スロットルレバーを徐々に開けはじめた。

200馬力が唸りを上げた。船首が跳ね上がり前が見えない!船尾には猛烈な渦巻きと飛沫が跳ね上がり、まるで尻から沈んでしまいそうな錯覚を覚えるほどだった。ボートはじきにプレーンし始め水平に戻った。ボブはさらにスロットルを開ける。水上では始めて経験するスピードだ。バイク乗りだった時代の感覚で言うと高速道路で150キロ近く出しているときとほぼ同じ感触だったが、

実速度は100キロくらいか?試しにカウルの上に顔を出してみると一瞬にして顔の形が変わってしまった。

 

爽快だ!コレがバスボートのドライビングだ!これだけで来た甲斐があるってモンだ!

 

後を見ると盛大な水柱が上がっている。高さ5メートルほどの龍の尾がはためいている様だった。

 

「チューンドか?これ?」

と怒鳴って聞くと

「おお!スプラッシュを上げてナンボよ!」

とボブは豪快に笑った。

 

(インレットへ)

 

あっという間のドライビングを終えボートは奥まった1本の流れ込み(インレット)へ差し掛かった。日本のダム湖のような渓流の流れ込みではなく、水の流れはほとんどないのだが水質は素晴らしく良い。湧き水が豊富な湖の特徴だ。

 

ボブは魚探ではなく日本式の「山立て」のような風情で慎重にポイント取りを始める。アンカー打ちの指示が出た。「掛り釣り」の再開である(笑)

 

「さっきは釣れなかったから今度は違うベイトを使ってみよう」とボブが言う。何を使うのか興味しんしんで見ているとまた違うストレージから今度は蓋付きのバケツを取り出した。

 

「これだ」とつまみ出したベイトは「イモリ」だった。いや、サンショウウオか?暗灰色のその両生類は見た事の無い代物だった。日本のイモリとは違いシルエットがはるかに太い。オオサンショウウオをそのまま小さくしたような奴だった。名前を尋ねたら「リザードだ」と言う。「いや、何リザードだ?」と聞くと

「いや、ただのリザードだ」と言う。アメリカ人とこういう話になると何時もこうだ。

おおまかだから詳細な名前の使い分けなど関係ないようだ(笑)

 

このリザードは実に愛らしかった。どこにあるのか判らないほどちっちゃな目が、平たい頭のほとんど両端に付いていて、精一杯広げた手は幼子の紅葉手のようだった。下あごから上あごへとフックを抜くのだが、その作業にためらいを覚えるほど可愛らしい生き物で、一時期流行ったウーパールーパーに匹敵するほどの愛嬌者だった。

 

ココはカリフォルニアで、巨バスの宝庫キャステイクで、ワールドレコード保持の名物ガイドなのに…(笑)

 

(ヒット!)

 

フックをセットして試しに船べりから水に漬けてみると、ウーパーは尾っぽを振りながら水底へと向かおうとする。なるほど…と一人ごちながらキャストして当たりを待つ。

 

ファーストヒットは俺のロッドに来た。「トム来たぞ!」言われなくても見ていた。ティップがピコピコと動き始めていたので予感があったのだが、やはりウーパーはバスが来たので慌てていたのだろう。どの辺で合わせるかと考えていると、フリーにしているスプールからラインがスーッと出始めた。そっとロッドを取り上げスイープに合わせをくれようとした瞬間「今だ!フックセット!」とボブが怒鳴る。

 

今やろうと思ったのに~~~(笑)

 

心地よい魚信が伝わってくる。軽めのドラグがずるずると出て行く。ドラグが止まった。ラインの角度がどんどん浅くなってくる。出るぞ!出るぞ!カパァッっと水面を割って出たバスをロッドティップを水面に突っ込んでかわす。左に走るバスをそうはさせじとロッドワークで右へといなす。数回のやり取りの後船べりに寄せボブがネットでランディングしてくれた。

 

ハンドランディングしたかったのに~~~(笑)

 

「トム!グッジョブ!エクセレント!」

「上手いじゃあないかお前!」

 

いやあそれ程でも、と照れながら北米での初バスを眺める。手尺で56センチほどのバスだ。自己記録ではあるが、期待していたサイズではない。まあまあやね!ボブが言うにはフロリダバスらしい。なるほど確かに体高がたっぷりとはしている。一応プライドがあるので、さりげなくリリースする(笑)その後二人して5本ずつ程度キャッチしたがそれ以上のサイズは出なかった。

 

ストップフィッシングの時間になり、ボブの合図でタックルを仕舞っていると湖岸に生物の気配を感じた。顔を上げてみると犬のような動物がこちらを見ている。

 

「ボブ!アレは何だ?」と聞くと「おお!カヨーテだ!」

(コヨーテではなく、カヨーテと発音していた)

「この辺では珍しいし、奴は特別フレンドリーらしいな!」

とボブが言うだけあって、アンカーを上げて近づいて観察しようとしても逃げようとはしなかった。

 

近くから見るとなるほど精悍な狼顔だ。犬とはかなり雰囲気が違う。全くカリフォルニアと言うところは自然が豊かである。海岸線では普通にプレーリードッグやアシカが見れるがコヨーテまで見れるとは…。

 

「トム!今日はお前ラッキーだったな!」

「ビッグワンもカヨーテも見れたしな」

 

10ポンドオーバーが釣れなかった俺に対するせめてもの慰めなのか、遠くを見ながら夕日に頬を赤く染めたボブがそうつぶやいた…。

 

 

Written by leon