★北米釣り紀行(3)後編

 

Written by leon

 

 

「キャステイク巨魁のゆらめき」

 

(前書き)

 

今日は日曜日で明日は仕事だと言うのに、まだ531日だというのに、えらく蒸し暑くてジタバタしているうちにまたまた女房にベッドから追い出されてしまった(爆)今現在深夜の2時だが寝そびれついでに続きを書く事にしよう…(笑)

 

楽しくもあり凄絶でもあったアメリカ生活だったが、帰国からすでに5年以上経過して随分と記憶も曖昧になってきたのに、釣りのシーンだけは明確にまざまざと蘇って来る。

 

特にボブクルピとの最初のキャステイクの釣りは「ザリガニの餌」に驚いてしまい、到底忘れられる物ではない。彼いわく「ワールドレコードを狙うのには、ライブベイトでなければ無理」と言う話だった。ボブは「シ○ノ」のサポートも受けており(リールはすべてカル○○タだった)達成すればかなりの高額のボーナスがもらえるのだそうだが、その折に「ザリガニで釣りました」って発表するのかしらん?(笑)

 

(前編からの続き)

 

「ルアーでチャレンジしても良いけど、責任持たないぞ」と言うボブの言葉に正直かなり動揺してしまった。まあしかしとりあえずは言うことを聞いてみる事にした。先は長いさ。何度でも来れるしな…。言われるままにフックの少し上にスプリットショットを打ちザリガニをフックにセットする。

 

初めて試す餌だがさすがにザリガニだ、硬い!頭の先のとがった部分に針を刺そうとするが簡単には通らない。もたもたしていると案の定プチッと鋏まれてびっくりし、取り落としてしまった。ボブに笑われながらもロッド二本にセットし、バスの通り道へとキャストする。

 

完全に回遊バスの「待ちの釣り」だ。

 

日本のリザーバーでも良くあるが、プレッシャーの高い湖ではデカバスは一箇所にとどまらずクルージングするようになると言う。

 

しがなくフィッシングチエアに腰を下ろして当たりを待ちながらボブと雑談にふける。ボブの本業はナントおまわりさんだった。映画に良く出てくる「ロス市警」の警官だ。で、オフの日はフィッシングガイドをやっているのだそうな。

 

2メートル近い大男で何をどう間違っても戦ったらとても勝てそうにない、警官特有なのだろうがそんなオーラが体中から滲み出していた。おまけに準備が済んで一息ついてジャケットを脱いだボブの両腕には見事なタトウーが入っていた。感じたオーラはひょっとするとギャングの持つものと同質のものだったのか?(笑)

 

突如ボブのロッドティップがピクピクと連続して痙攣し始めた。「お!当たりだ!」と俺が思わず「日本語」で言うと「いや、ザリガニが暴れているだけだ」と「英語」で返す。全く釣り人とはおかしなものだ。違う言語でも結構通じてしまう(笑)

 

「バスがすぐそばに来ている」

「多分クローダッドの周りを回りながらタイミングを見ているのさ」

 

なるほど、爪親父は今ハサミを振りたててバスの回る方向へ付いて周り、一生懸命威嚇しているのだな、と想像できた。

 

走った!クラッチを切っているスプールからラインが激しく引き出され始めた。反射的に手を伸ばしたくなるのを我慢してみているとボブはおっとりとロッドを取り上げ、無言のままロッドをスイープにあおった。ムーチングタイプのアクションのロッドなのだろうか、バットから鮮やかな弧を描いてしなった。ドラグがすべる音が聞こえた。ズズッズズッと言う音でそれ程のビッグフィッシュではないのは俺にもわかった。事前にボブが口真似で10ポンドオーバーバスがラインを引き出す音をして見せてくれたから。「ZZZeeeeeeeeeeeeeeeee」って感じだったかな(笑)

 

難なくキャッチしたバスは50cmに少し満たない綺麗な魚体のバスだった。ボブが言うにはフロリダ種ではなくノーザンだと言うことだった。そこから二人のロッドには2時間ほど当たりがなくボブも俺も次第に無口になっていた。

 

(プレデター襲来)

 

少しぼんやりとしているところへドラマは突然やってきた!ボートから2メートルほど離れた水中を猛烈なスピードで20㌢から30㌢くらいの魚が数十匹通過していった。ボブがなにやら大きな声を出した。指差す先を見ると向こうから水面を跳ねるようにして次の集団がやってきた。明らかに何かに追われ必死に逃げている。船べりにぶつかりそうになって縦横に入り乱れてパニックに陥っている。目を丸くして見ている俺の真下の水中からいきなり怪物が姿を現した!ボートにぶつかって逃げ場を失った魚は虹鱒だった。

 

(後で聞いた話だが、バスの餌として虹鱒を放流しているらしい。さすがとしか…)

 

怪物はぎょっとなるくらいの大口を開けて素晴らしい反射で虹鱒に食らい付いた。頭から半分ほど咥え込まれた虹鱒は尾びれを激しく痙攣させて飲み込まれていった。

 

2㍍あるかないかの至近距離での出来事だ。野生の猛々しい捕食行為と凄惨な食物連鎖の一環を、まるで記録映画をスローモーションで見るがごとくつぶさに見てしまい思わず胴震いがしてしまった。

 

怪物は70㌢近いフロリダ種のバスだった。

 

激しいが的確な動きで虹鱒を捕らえたその巨魁は動きを止め、腹を横に返すような仕草でゆったりと尾びれを振りながら恍惚とした表情で獲物を飲み込み、その時点で我々に気づいたように目をギョロっとさせながらゆっくりと水中に消えていった。

 

怪物のシルエットを頭の中で反芻してみた。なんと言う大口!なんと言う体高!そいつは俺が見慣れたバスとはあまりにかけ離れた体躯を持つ生物だった。

 

60㌢近いバスは山口のリザーバーでも見たことはあるが、長さだけでは語れない圧倒的な肉厚と存在感を感じさせる、まさに「怪物」だった。

 

言葉を失った…。

 

ボブが興奮して叫ぶように言葉をぶつけてくる

 

「トム!見たか!アレだ!フロリダだ!」

「ワオ!エキサイティング!」

「いいもの見たな!な!な!」

 

俺はただただ頷く事しか出来なかった…。

 

その後はクローダッドを結んだロッドのティップを見ていても心は上の空だった。

 

何かしらの予感がした。

 

「俺に釣れる代物じゃあない」

「旅人の手に負えるような奴ではない」

「研鑽と努力と修行の果てにしか手に出来ないトロフィーだ」

 

の思いで胸が一杯になってしまっていた。

 

以前ビデオで見たが「王様」のニックネームで有名な「村田プロ」がアメリカで苦労の末に10ポンドオーバーを取材の最終日のフィッシングストップ30分前に釣り、カメラの前であるにもかかわらず滂沱の涙を流していたが、アノ心境を垣間見たような気がした。

 

時計を見ると午後に差し掛かっていた。ボブが、いったん上がってランチにして午後からはアッパーレイクを攻めて見ようと言った。タックルを片付けながら俺は自分の動悸がいまだ激しい事に気づき、一人苦笑してしまった…。

 

レイクキャステイク結末編

「アッパーレイクとコヨーテとリザード」へ続く

 

Written by leon