~釣り人のホラとウソ~

 

「釣りは男のロマン」とよく言うが、全く同感だ。人類のオスに元来備わっているはずの「狩猟本能」を満たす、現代で実践可能な唯一の狩猟だから男たちが燃えない道理があるはずも無い。そして、男たちは己の本能を満たすために切磋琢磨し、時には命をかけてさえ取り組むほどの「作業」となってくる。

 

さらには、未知なる物への畏敬の念や、己の欲望やあくなき探究心などが沸騰し、その果てに「ホラ」「ウソ」となって出現してくる。

 

しかし、考えてみるに釣りに関するホラやウソは一般的なソレと違って「無邪気」と言うこと以外に「真実」や「未確認」や「希望」がそこここにチラホラと垣間見えはしまいか?とくに、未だ見ぬ大物話や、惜しくも逃がしてしまったバケモノなどの話には聞く方としては「またまた、コノヤローが!」と思いつつも「そんなのが居るのならぜひ自分が釣ってみたい」

 

と内心思うのが釣り人の常であろう。ソコまで行かずとも、写真や魚拓などで確認できない過去に釣れた大物魚の自慢話などは、聞くたびにサイズやそのファイトがのんのんずいずいと成長したりするが、時折反省からか元のサイズに戻ったりもする。このあたりは自身否定できない「釣り人の習性」でもある。

 

これらのホラやウソは、進展、発展、研究、探求、追求、発見、実践、到達、と言う一連の流れの「基」になるもので、コレらは決していさめたり、馬鹿にしたり、無視してはいけない重要な「スターター」と言うファクターであり、コレなくして物事の真髄に近づくことは出来ないだろうとも私は思う。

 

「迷信」や「妄想」は大体において決して的外れではなく、ソノ道の「達者」達が本能から来る「感」で捉えたものであり、たいていの事が後年になって現実と化したり、全く別のことの大発見に繋がったりしているものだ。

 

ともあれ仲間達の(この場合、釣り人全般)つく、無邪気なホラは楽しいものでもあるが世の中には凄い話もある。

 

ここで開高健氏の「私の釣魚大全」から、あるイギリス人釣り師の話を引用してみよう。

 

☆☆☆

 

人物はシドニーの海岸に現れた人食い鮫を仕留める事を買って出、ドラム缶四つを筏状に組んで浮きにし、ロープに氷屋の氷ばさみ程もある大きな針をセットし、子豚を丸一頭くくりつけ、船に取り付けたウインチで挑むと怪物は見事にその「仕掛け」に食いつき、四個のドラム缶を一日近く引きずりまわした挙句に浮いてきたそうな…。

 

怪物は中型の鯨ほどもあるシュモク鮫だった。

 

人物はソレをヒントにポリネシアのある島で、やっぱりワイヤを道糸にし子豚をくくりつけて海になげ、一方の端をやしの木にくくりつけて昼寝をしていたら「目覚めたときには浜からやしの木は消えていた」

 

と言う話である。

 

開高氏はある日この話を徳之島の漁師に話すと漁師は笑いもせず、疑いもせず、深く短くうなずいて「いや、そういうこともあるでしょう」と言ったそうだ。

 

☆☆☆

 

身近なところで私の経験だが、7年前のある日、ロスのキングピアから出港して一晩中海を走り続けてメキシコの海まで行く「大物釣り乗合船」に乗ったことがあり、ソノ道中でクルーが皆を集めて注意事項などの説明を始めた。

 

彼は鼻の頭が赤くなっていて一目見て大酒のみであることが見て取れる人物だったが、そのせいか口調がくぐもっていて良く聞き取れないので、私はつたない語学力で必死に聞き入っていた。

 

大体の内容は、狙いはマグロであること。まずはトローリングで釣るので、くじ引きで3人づつやること。ヒットしたら船を止めるので、他の人はその隙に「底もの」をやるようにとの指示だったと思う。

 

話はソコから先なのだが、なにやら「人が死ぬ」「魚に食われる」「気をつけろ」

と言うフレーズが耳に入ってきた。私は当然「鮫」をイメージし、話が一段落したところで確認のために質問をした。

 

「ヘイ!チーフ」

「俺、日本人。ここ初めて。言葉少し。」

「今お前、さかな人を食う言った。それ、何鮫か?ジョーズと同じ鮫か?」と質問をすると「いやいや鮫じゃあ無いといったろう?鮫はたいしたこと無いと言ったのだ。」

「この船はでかいからジョーズが来たってびくともする物じゃあない!」

「俺はこう言ったのだ。もういっぺん教えてやるから耳の穴かっぽじって良く聞きな!」

「ヤバイのはバラクーダだよ!」

「奴はジョーズと違って船の中まで飛び込んでくるんだよ!」

「ハンパじゃあないぜ、8フィートから10フィートもある奴が居るんだ!」

「コイツがルアーをピックアップする際に水中からルアーを追って飛び上がり、そのまま釣り人ののど笛へ正確にガブッときやがるんだよ!!」

「だから、な!、ルアーはすぐにピックアップさせずに、慎重にやるんだよ!」

「オーケー?」

 

ぶはっ、なんて話だ!ほんとかよ!その日はちびりながら釣りをしたが、私の針にはマグロも怪物バラクーダも掛からず1.3メートルほどのチビジョーズが食いついただけだった。

 

もうひとつはじかにこの目で「バケモノ」「怪物」「アンビリーバボー」を見てしまった。サンディエゴのバスプロ「ボビースゥオートウッド」と一緒に、バス釣りをしたときの話だ。彼は、レイクキャステイクのトップガイド「ボブクルピ」とライバルである。何の?と言うとボブクルピの父親が持つ「バスの世界記録」を争っているのだ。地元の噂でも「新記録を達成するのはこの二人をおいてない」と言う話だ。

 

さて、ボビーと10ポンドオーバーのネスト付きバスを狙ってスタートしたが、ボビーがボートを出してすぐ「すまないが、20分ほど俺にくれ!」「日課なのでな…」

 

と言い、ボートハウスの沖目に船を泊めてストレージからごっつい竿を出した。驚いたのはルアーの大きさだった。今では日本でもお目にかかれる「キャステイクルアー」だがサイズが凄い!手尺で35センチのスイムベイトだ。

 

メーカー特製のボビーオリジナルらしい。ラインは60ポンド。ロッドも特製のヘビージギングロッドといった風情。で、べった~ん、ぼった~ん、とボートハウスの方向へ何度も打ち返す。何を狙ってるんだ?と聞くとバスだと答える。

 

へ?といぶかしんでいると、ロッドを仕舞いながらボビーが「釣って見せて驚かしてやろうかと思ったが、奴は今日も機嫌が悪いらしい」

 

「実はな、釣れば確実に!と言うより、過去記録を大幅に塗り替えるビッグワンが居るんだ」と言う。大きさをたずねると、両手をソノごつい肩幅よりはるかに広げる。ほぼ1メートルだ。は、ははは…とあいまいな笑いをすると、にやっと笑いながら

 

「信じられまいな…。じゃあ見せてやるか!」といいながら、エレキのペダルを踏んでボートハウスへ近づく。「おお、居た居た!いつもの休憩場所だ!」と言ってボビーが指差す方向を見るがよくわからない。

 

「ほら、ハウスの真下を見てみろ」

 

え?、あれ魚か?ボートハウスの下には日本でも見慣れた発泡スチロール製の長さ1メートル程のブイが、何個も連結してあって、フローリングの下で連なった影になっている。と思ったら、その内の一個がユラッと揺れた。

 

え、ええっ!!ま、まさか??ブイではない、バスだ!な、長さは?あはは…、い、1メートル?ブイとほぼ同じだ。あとでブイの長さを図ってみよう…。た、体高は?へははは…、ご、50センチか?体高がランカーサイズ!?…。後ろを見るとボビーがニヤニヤ笑って目の奥が「な!」と言っていた。

 

追記

 

諸君、わたしをホラ吹きと言う無かれ(笑)アメリカの旅でいささか興奮気味ではあるが「七掛けおじさん」の異名を持つ私の話でも、ココは信じておいたほうが人生において得をするよ!(爆)

 

・・・ところで、仕事関係で耳に入れた話。広島県のとある野池に1匹の1.5メートル級のピラルクーと50センチ以上に育ったアロワナ12匹が生息している?らしい?近所の小学生達が「むちゃくちゃ大きなコイがおった」と大騒ぎしたことが?どちらもルアーで狙える魚種だ。

 

この「ホラ話」、君はチャレンジしてみる勇気が・・・あるかな?(爆)

 

Written by leon