★北米釣り紀行(3)前編
Written by leon
「レイクキャステイクのバスFの怪」
「フロリダバス」バサーなら、いや、ルアーマンなら誰もが「一度は」と憧れる魚ではないだろうか。しかも10ポンドオーバーがウジャウジャ居るとなると想像するだけで身震いがする。もっとも10ポンドのバスがどれ位の大きさなのかはこちとら日本人、トンと見当も付かないのだが(笑)1ポンドは約450グラムだから10ポンドは4.5キロと言うことだ。してみるといまだ釣ったことのない大きさのバスだろう。
想像するに、日本で言えば60cm近い魚体か?
●憧れの湖
仕事でロサンゼルスに赴任をして一週間がたっていた。思い返せば1ヶ月前、北米赴任が本決まりになった瞬間に俺の頭に充満したのは「な、何から釣ってやろうか?」だった。全く不謹慎な話ではあるが「釣り○○」である諸兄には十分ご理解いただける心情ではなかろうか?
とりあえず赴任直後のやるべき仕事を全部済ませて一段落ついたこの日、デスクトップにかじりついて現地情報を仕入れる事にした。
マアあるわあるわLA地区だけでも満載のフィッシングデータが!それも目と鼻の先にある海岸で色々な大物が釣れている。
しかし何より俺を奮い立たせたのは巨バスの宝庫「レイクキャステイク」の情報だった。この湖の話は日本でもバス関係の雑誌で取り上げられているので知っていた。早速現地スタッフに頼んでガイドを探す事にしてもらったが、俺の条件は「ナンバーワンガイドを探してくれ」だ(笑)
有能なスタッフはすぐに一人のガイドにコンタクトを取ってくれた。
スタッフは釣りに疎い人物だったが大手ショップに電話を掛けて、ショップ店長が「それなら料金は高いがこいつしか居ない」と自信を持って薦めてくれた「ボブ・クルピ」と言う一風変わったファミリーネームの持ち主だ。
人気ガイドの彼はなかなかリザーブできないのだが、幸運な事に四日後である土曜日が偶然にも予約キャンセルで空いていた。これは釣りの神様が俺に釣れって言ってくれているのだろうと納得し、料金も聞かないうちに「リザーブ!」と叫んでいた(爆)
●一路キャステイクへ!
秘書氏が丹念に何枚もプリントアウトしてくれた現地までのマップを、三日三晩飽きもせずに眺めているうちに当日がやってきた。
キャステイクがどこにあるかも知らないままに予約したのだが、思いのほか近くにあり、一時間半ほどの道のりだった。待ち合わせはキャステイクの近くにあるフィッシングショップのパーキングだ。ブラックのシボレータホにブルーのレンジャーボートがボブの目印。車もボートも行く先も、気が遠くなりそうな憧れの響きだった。
到着すると一目でわかった。それもそのはずパーキングではなく、店の前の道路にトレーラーを曳いたタホがデ~ンと止めてあった。店に入ると早朝(7時)のせいか客は二人で、一人はカウンターに肘をついて店主らしき人物と雑談をしていたが、人目で「彼だ」と思えた。「あ~」と俺が言いかけるより早く、彼は「Mr Kaku?」と問いかけてきた。で、俺は昨夜から考えていたせりふを言う。
「ミスター、は必要ない。トムと呼んでくれ」
するとボブは
「あれ?話では君は英語が喋れないと聞いたが、話せるじゃあないか?」
と言う。そこで俺は、コレも昨夜考え抜いて用意したせりふだが
「おお!昨夜一生懸命勉強したのよ!」「釣りたい一念でな!」
とカマしてやったらコレは見事に効いた!即効の専制パンチだ!ボブは店主と顔を見合わせて米国人特有の豪快な笑いを見せたあと
「ワオ!最高のウイットだぜ!ヨロシクなトム!」
と握手を求めてきた。
この時点で最初の関門を必死で突破した俺は、平然を装ってはいるものの咽喉はカラカラだった(笑)
ボブは俺の肩を抱くようにカウンターの隅へと案内した。
ソコには分厚いファイルのような物が積んであり、ボブはまず一冊を取り上げて「今までに俺が客に釣らせたビッグバスの写真集だ。見てみろ」と差し出す。
物凄かった!
めくってもめくってもバケツ口(現地ではこう呼ぶ)サイズのオンパレード!
ぶっ壊れるくらいの笑顔、笑顔、笑顔の客達。中には日本のトップバスプロの顔も…。
ボブが次を差し出し「俺と親父のレコードだ。こっちはレコード認定書だ」と言う。見てみるとボブの親父は正確な名前(○○○○?・クルピ)も年代も忘れてしまったが、紛れもなくいまだにブラックバスのワールドレコード(ウエイトで)保持者だった。
ボブはと言えば、8ポンドテストラインによるワールドレコードだった。
いつかは親父の記録を超えるのが夢だとも語った。
いやあ~、良いのに当たったゾ、コレは。コイツはモノホンだ。正真正銘のマエストロだ。天上天下唯我独尊斉天大聖ボブクルピだ(笑)。
●ココがキャステイク?
ひとしきりの説明の後「レイクのゲートが空く時間」だとの事でタックルをボートに載せ、タホの助手席に滑り込む。3分ほども走ると湖が見えてきた。湖岸へと続く道路へと入り、水際へ向かって走るとゲートが見えてきた。すでにゲートには数台のトレーラーを曳いた車が並んでいた。
まるで有料道路の料金所のようなしつらえで、車に乗ったままボブは何やらパスのような物を係員に見せてゲートを通過した。まるでテーマパークへ来たような気分だった。
ボートのランチングスペース(スロープ)は馬鹿っぴろく、十数艇がいっせいに横並びで支度を始める。とたんにそれまで鷹揚だったボブの態度が一変し、ヘイ、トム!ハリーハリー!Go!Go!Goと急かし始める。
何が何やら理解が出来ない。
とりあえず指図されるままにランチングの手伝いを必死で行いボートへ飛び乗る。そうか!ポイント取りが激しいのだなヤッパリ!
しかし周りのボートは結構チャチだぞ!ボブのボートは…おお!船外機がデカイ!200馬力近いなこりゃあ!すっ飛ぶぞこりゃあ!うほほほ♪本物バスボートでカっ飛びドライビングだあ~♪
と内心はしゃいでいたら、ボブはすぐにエレキを下ろしてフットペダルを踏み始める。
は、ハレ?と怪訝な顔をしていたらボブが振り返って「心配するな!俺のエレキは特注だ!見てろ、あいつを抜いてやる!」と言う。い、いや、何でエンジンは使わないのか?と問うと「このレイクはエンジン禁止だしょうがない」と言う。
え?ココはキャステイクだろう?写真で見たがロケットボート(レーサー)のようなのもすっとんっで走ってたぞ!とさらに問いかける。
「あ~、そりゃあアッパーレイクのほうだ。ココはロウアーだからな」とボブ…。キャステイクは二つの湖で出来ていた。道理で妙に狭い湖だと持っていたが、本湖はこの上にあり十倍以上の広さらしい。だからアッパーでローなのか…、それにしても…、何だか話が…、違って…、来たような…。
10分程のエレキ競争の結果、ボブのボートは宣言どおりぶっちぎりの速さで他船を圧倒してトップに立った。いったい何ポンドの馬力があるんだこのエレキは?
程なくして岸際がサーフ気味のなだらかなエリアに差し掛かりボブはボートをソコへ止めた。「ヘイ、トム!そこの後ろのデッキにあるアンカーを投げ込んでくれ」と言う指図。え、ええ~ッ!あ、アンカー?と思いながらも指図に従う。
ボブは船をスルスルと前へ進め、前のデッキの先端からもう一つアンカーを取り出して放り込み俺にアンカーロープを引っ張るように指示を出す。要するに「二点掛けの掛り釣り」の形だ。
マ、いいや、なんせマエストロだからな。大聖だからな。色々考えがあるのだろう。郷に入らば郷ひろみだぜ。と訳がわからないギャグを頭の中で飛ばしながら次の指示を待つ。
●クローダッド?
「トム、タックルを見せてみろ」
「ホイヨ!スピニング1本にベイト6本だ。どれが良いか?」
「ベイトのラインは何ポンドを巻いている?」
「んと、8と10と12と16、20、25だな」
「よし、じゃあ8と10の二本で行こう!」
「へ?細くないか?」
「うんにゃ、丁度良い」
「でも20ポンドオーバーが居るんだろ?」
「細くないと食わねーよ!」
「ふ、ふぅ~ん??」
「フックはこれを付けな」
「け?こりゃあ環付きチヌ針?」
ボブは何やら小さめのクーラーボックスのような物の中からある物を取り出した。
「ゲ!それはアレじゃあないですか?あ、アレ!」
「oh ジス イズ ア クローダッド!」
「ほ~、クローダッドさんで!」
「訳して爪親父だな?」
「って、ザリガニじゃねーか!!」
ボブは環付きチヌ針をラインに結び、ザリガニの頭の尖がった先端にカツンと縫い刺しにして岸目がけて放り込み、ボトムに到達したのを確かめてからラインスラッグを取り、ふたたびクラッチを切ってから船べりにロッドをそっと置いた。さらにもう一本セットし並べて置く。まるでコイ釣りの風情だ。
「さあ、トムも同じようにやりなよ」
「食ったらヨ、スルスルってラインが走るからビシッといくんだぞ」
俺はマジに腰が抜けそうになった。
ここはカリフォルニア。ロサンゼルス郊外。名湖キャステイク。20ポンドバスの生息する聖域。全米ナンバーワンのスーパーランカーガイド、ボブクルピ。料金3万5千円。日本から仕込んできたフロリダバス用ルアー、ン万円分。
うわあ~~~~ッ!何が悲しゅうてザリガニで釣らなアカンのにゃあ~~ッ
(心の叫びです)
気持ちを無理やり抑えて尋ねに掛る。
ボブいわく「スーパーランカーを釣りに来たのだろう?」「だったらコレしかないぜ!」「ルアーでやりたきゃあやっても良いが、俺は責任とらね~ぞ…」とおっしゃる。
「でな、なんでロウアーかを説明するとだな」
「俺がアッパーで釣ってきたデカイ奴は皆コッチ(ロウアー)にリリースしてるのさ」
「上にもまだデカイのはたくさん居るけど、密度で言うとコッチが遥かに上だな!」
「おまけによ、ルアーで食わねー奴を餌で釣ってきたのだから、コッチのバスはルアーじゃあ難しいのさ」
大体話が読めてきた。
キャステイクといえば全米から世界からアングラーが訪れる聖地だ。当然プレッシャーは高く、デカイ奴ほどすれているはず。その点においては日本のリザーバーなど比ではないくらいのスレ方だろう。そんな中でスーパーランカーを釣らせるガイドと言うのはこう言う手段に出るわけだ。してみると今朝見た「某日本バスプロのデカ物持ち写真」もロウアーで、爪親父で釣ったのか?
聞くのが嫌で聞かなかったけどな…。
さてさて、事の顛末はいったいどうなるのだろうか?「トム」は餌を使ったのか否か?爪親父でスーパーランカーは釣れたのか否か?ブツ(リグが)がブツなだけにこの先はあんまり書きとうはございません(笑)。
女房に夜中に布団から追い出されて(寝相が悪いの…)
またまた俺に眠れない夜が来て(時々来るの…)
何かしら創作意欲のような物が掻き立てられて(時々降りるの…)
爺の四方山話を君ら若い衆に聞かせたくなってきて(自慢好きだし…)
ふとPCの電源に手が伸びたときに運が良ければ続きを書き出す(かも知れない…)
北米釣り紀行(3)後編
「アッパーレイクとコヨーテとリザード」
タイトルだけ決めておこうか(笑)
Written by leon